Vol.33 中川村ここにしかない、
この土地の味わいを映すワインを
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この土地の味わいを映すワインを
「果樹が豊富に育つこの村にワイナリーを造る!」。
2014年vol.8の小紙でそう宣言していた若者のことを、覚えているだろうか。
8年の準備期間を経てついに今年、彼が代表を務める醸造所の建設がはじまる。
村もワイン特区に認定され、中川村産ナチュラルワインのリリースは、いよいよ目前だ。
転機は突然訪れた。横浜の大学を卒業し、会社員生活も経験して「農業でもやろうか」と村での暮らしを再開していたある日のこと。村内に暮らすストーブ作家のイエルカ・ワインさんが、夕食の席で一杯のナチュラルワインを注いでくれた。はじめて聞くワインに、体験したことのない味わい。そして一杯の背景にあるストーリーを聞くころにはきっと、曽我暢有さんが進む道は示されていた。
ナチュラルワインとは大まかに言えば、栽培から醸造まで化学的処理に頼らず育まれたワインのこと。日本では「自然派ワイン」と訳され耳触りよいイメージだが、発祥の地フランスでは巨大化し権威化したワイン界へのカウンタームーブメントの象徴とも言われる。
栽培も醸造も一手に担う、そう決めた曽我さんだが、それはスタートラインに立つことだけでも長き道のりだ。農薬に頼らないぶどう栽培を実践しながら、醸造技術も学んで……日々は矢のように過ぎていった。「『あいつは都会から帰ってきて、いったい何をやっているんだろう』って、ずっと思われていたと思います」。笑顔で話すが、胸には数々の悔しさや葛藤も抱えたことだろう。
ただそれは、たくさんの学びや師との出会いを得た年月でもあった。研修生としてすごしたフランス・ジュラ地方では「どこで飲んでも土地の光景が目に浮かぶような」ワインに出合った。山梨では日本屈指の醸造家・小山田幸紀さんと出会い、「生きる教科書に対峙しているような気持ち」で、今も足繁く通っている。じつは2018年に結婚した妻・晴菜さんとも、このワイン用ぶどうの畑で出会ったのだった。
そして2019年。曽我さんの思いと行動に突き動かされ、ついに中川村は自治体としてワイン特区に認定されることに。今年(2020年)秋には自宅近くに醸造所の建設が着工される予定だ。
「快く畑を貸してくださったり、見守ってくれたみなさんに感謝する意味でも、名前は地域名にしたくて」、醸造所名には曽我さんが暮らす「南向」の名をを冠した。 ところで、一般的にワインの世界ではぶどうを育てる土質が問われると聞く。中川村の土は果たしてそれに見合うのだろうか?
「僕も最初は、ワインの名産地と同じような土がないかと探していました。でもある畑の地主さんが『この土は粘っこいから、作物も人間も粘り強くなるぞ』と誇らしげに話すのを聞いたとき、『自分はこの土地らしいワインをつくればいいんだ』と気づいたんです」
そう、曽我さんが感じたナチュラルワインの魅力の一つは、画一的な味に近づける競争ではなく、土地ごとの多様性をまるごと表現するものだということ。この村だからこそできる最高の味を追い求めればいい、だから面白い。
「すでにイメージはあるんです。あたたかくて、穏やかで、ちょっとゆるいワイン(笑)。南信州、ちょっとヤバいぞ!って、話題になるくらいの味が出せたらと思っています」
インタビューは季刊「日本で最も美しい村」よりの抜粋記事です。