Vol.23 北海道鶴居村空につながっているような道を見た瞬間、
「ここだ!」と
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「ここだ!」と
「大草原の小さな家」に憧れて、丘の上にゲストハウスをオープンして19年。冬のシーズン、ゲストの8割以上が外国人。
ウーファーの受け入れも行っているため、世界中の人と人がまじわう「社交場」でもある。
阿寒町(現・釧路市)生まれの佐知子さんは、大阪の調理師専門学校でフランス料理を専攻した後、食の仕事に携わり、22歳で大阪出身のご主人と結婚。子育てを機に、北海道へ戻ることになった。田舎や動物好きなご主人とともに「北海道なら酪農をしよう」といったん、お隣の標茶町に移住。その後、1999年に鶴居村でファームレストラン「ハートンツリー」を開業した。丘の上にレストラン、ゲストハウス、チーズ工房と、大きな窓がある自宅を構える。ここには佐知子さんが子どもの頃から夢見ていた「大草原の小さな家」の世界が広がっている。
「鶴居村を選んだのは、酪農ヘルパーとして村に呼んでもらったことから始まる。もともと酪農をやりたかったので、酪農家さんとの繋がりが出来れば技術を学べると思って」。最初、住んだのは小さな庭がついた村営住宅。「それまで大阪にいたので、お庭があるのがすごく嬉しくて。外にテーブルを出してご飯を食べたり、本を読んだり、手紙を書いたり。すぐ隣は幹線道路だったけれど」と笑う。
酪農を始める、という夢は様々な条件が整わず叶わなかったが、その代わりこの土地と出会った。「空につながっているような道を見た瞬間、『ここに住みたい♡』と思いました。テントを張ってでも住むしかない。と意気込んで」。ゆるやかな傾斜が広がる大地。佐知子さんにとって「楽園」に見えた土地は、地元の人からは不毛の地。「ここは人の住む場所ではない」とみんなに反対されたが、一人の大工さんが、電気や水道を通すことから、レストランを建てるところまで親身に面倒をみてくれた。
「自分が酪農家にならなくても、ここには美味しい牛乳を生産する酪農家さんがいる。私はそうした酪農家さんの応援団になろうと、レストランでお出しするメニューのすべてに、村の牛乳を使っています」。定番の一品は、鶴居村の牛乳と数種類の香辛料で煮込んだスパイシーなミルクカリー。ガーデンランチは、皿の上がお花畑のような華やかさ。ポークシチューに入れる豚も村内で育てているものを使い、チーズを作る時に出来る「ホエー」の成分や卵を練りこんだパン、ビーツを練りこんだパスタなど、すべて心のこもったお手製。「うちでは牛乳と野菜が調味料。手間はかかるのですが、どれも素材の味を生かしたものばかりです」
佐知子さんがほれ込んだ牛乳は、村内で家族経営する酪農家、菱沼ファームのもので、乳質の良さが自慢。おススメとあって1杯いただいてみると、甘く濃厚ながら後味はスッキリ。佐知子さんいわく「しあわせ家族のしあわせ牛乳」。この牛乳を使ったチーズ作り体験のほか、お花の細工寿司作り、朝焼きパン作りなどの体験メニューも充実している。
「お客さんは口コミやフェイスブックを見て来られる方々が多くて、タンチョウのツアーで来られる方がランチに来てくださったり。2月のタンチョウシーズン中、ゲストハウスは85%が海外の方ですね」。
農作業や宿のお手伝いをする代わりに住まいと食事を提供するWWOOF(ウーフ)のホストにも登録しているため、常時、3〜4名ほどのスタッフ(ウーファー)とともに暮らす。海外からも訪れるので、常に国籍はワールドワイド。「4月にはオーストラリアから61歳の女性がウーファーとして来られる予定。これまでの最高年齢は52歳だったので記録更新ね」。
夫婦そろってビール好き。ゲストとともに夜な夜な美味しい一杯で盛り上がる。「毎晩がパーティーみたい。忙しくても楽しいの」と佐知子さん。同じ方向を見つめる旦那様とは「毎日のように夢を語り合いながら、いつか地ビールを作りたいね、と話したり。仲が良くて、仲間みたいな感覚ですね」。
子どもの頃から本が大好き。「赤毛のアン」それから「大草原の小さな家」はテレビドラマでお父さん役を演じた俳優、マイケル・ランドンにファンレターを書いたことがあるくらい好き」。
「自分たちの手で必要なものを作り出す暮らしにずっと憧れていました」。
小さい頃は無口で引っ込み思案。子育てをしている頃も、ママ仲間の輪に入るのが苦手だった。変わったのはここのお店を始めてから。「住み心地は最高で毎日が楽しい。好きな環境、好きな世界で暮らしていると、人間は潜在能力が一気に開花するのかも」。
佐知子さんの笑顔は、周囲の人をもしあわせに巻き込んでいく大らかさを持っている。読書少女だった頃の気持ちのままに、大人になった。そんな佐知子さんの放つ「自由さ」に惹かれて、今日もまた、世界中からのゲストたちが丘の上にやってくる。
インタビューは季刊「日本で最も美しい村」よりの抜粋記事です。