Vol.30 椎葉村何だって買わずにつくる
「究極の山暮らし」を実践中
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「究極の山暮らし」を実践中
引き寄せられるように、流れるがままにーー。
「食の継承者」という響きとミッションに惚れ込み、2018年4月に大阪から移住。
椎葉村の伝統食を継承し、多くの人に食べてもらうため、懐深い村の人たちに食の知恵や技を学んできた。
「毎日がめっちゃ楽しいです」と見せる大きな笑顔は、村の未来を明るく照らしている。
不動産の営業、料理人、バーテンダー、バスツアーの添乗員など、多くの職を経験。海外にも目を向け、世界一周の船旅をしていた時に知人から聞いた発酵食品に興味を持ち、発酵の世界にハマっていった。料理が大好きな江崎紋佳さんは、独学で味噌や漬物をつくり始め、興味の先は日本の伝統食へ。「昔ながらの伝統食を学びたい」と情報収集をしていた時に見つけたのが、椎葉村の「食の継承者」募集だった。「やりたいのはこれ!」と迷わず飛びつき、そのままの勢いで応募。面接で初めて来村した時も、「めっちゃ山やけど住めば都やろうと思った」とあっけらかんと笑う。そのたくましさと屈託のなさが、奈良県出身の江崎さんをこの村へと引き寄せたように思えてくる。
山深い環境から生まれ、残されてきた椎葉村の伝統食を村の人たちに教わり、再現することが江崎さんの活動の一つだ。使用する素材は山に採りに行ったり、知り合いに分けてもらったりと「買うのではなく集める」ところも椎葉流。蕎麦のパンケーキ、椎茸のコンフィ、猪のレバームースなど椎葉の食材を活かした新たなレシピの開発も行っている。
そして大事な活動のもう一つが、椎葉に残る在来種の種つなぎだ。椎葉の土地に合う種を途絶えさせてしまうと、もう二度と手に入れることができない。農業未経験だが、畑の大家さんでもある現役百姓のおばあちゃんに教わりながら、ヒエ、アワ、タカキビなどの雑穀を手探りで栽培している。さらに、「一年前には、たまたま知り合ったおばあちゃんが育てていた在来小麦の種を、間一髪でつなぐことができました」と喜びいっぱいに話す。
江崎さんが、椎葉の食材の中で最も興味をそそられているのは雑穀だという。椎葉の焼畑を唯一受け継ぐ椎葉勝さんの畑で雑穀栽培を学ぶ「雑穀オーナー制度」の企画にもスタッフとして参加し、学びを深めている。
「雑穀はつくるのは簡単ですが、食べられるようにするまでがめっちゃ大変で、だからこそ価値があるのかなと思っています。加工すると、とろっとろになったり、もっちもちになったり。例えばアワをパンケーキの粉に混ぜて焼いたら、めちゃくちゃおいしくなります。そのおいしさをもっと多くの人たちに知ってほしいんです」
「椎葉の本当の良さは、長く滞在してこそ見えてくる」と江崎さんは言う。それは、椎葉の魅力が人そのものだからだ。
「椎葉の人はやさしいだけでなく、おもてなし力がすごい。おうちに少し顔を出しただけでも、『何もないけど』と言いながらあれこれ出てきて、『何でもあるやん!』って(笑)。ここに暮らしていると、みんなが支え合いながら生きていることが伝わってくるんです。毎日が楽しいし、本当に来てよかったです」「ものは買うよりつくる」という古くからの山の暮らしを心から楽しんでいる。満面の笑みがそのことを物語っていた。
インタビューは季刊「日本で最も美しい村」よりの抜粋記事です。